2006年ワールドチャンプへの道2

U.ワールドシリーズ

 毎年、プレイオフといえば、DSで勝って当たり前、CS、とーぜんさ〜、という感じで、余裕を持って勝ちあがり、ボクたち、毎年春からワールドシリーズ制覇を目標としてるんだよ〜、いい選手集めたし〜、オーナーがお金あるから〜、伝統あるし、ファンも勝たなきゃ機嫌悪いんだも〜ん、エリートなんだも〜ん、と嫌味さえ漂う、ヤンキ―スみたいなチームから、同じディヴィジョンの優勝候補がケガ人続出で調子悪くなったから、なんだか無我夢中で必死になったらシーズン優勝しちゃったという感じで、田舎もんが高級レストランに入り込んだみたいな、場違いなほどどんくさいチーム(失礼)まで、いろんなチームカラーを持っているのが常だ。91年のアトランタ・ブレ―ブス対ミネソタ・ツインズなんて、両方ともそういうチームだったので壮絶な歴史に残るワールドシリーズになったというと怒られるだろうか・・・(どんくさいほうね)。
だが、人間、何事も余裕があるに越したことはない、06年のカーディナルスみたいに、瀬戸際に追い詰められてやっとプレイオフに出場が決まったチームは、毎年必ずいる。10ゲーム差があるのに、なぜか、9月になって失速し、必死で持ち直して優勝はする。が、遅刻しそうになって、全力疾走で電車に飛び乗ったはいいが、顔も洗っていないし身支度も満足にしていないようなもの。息付く暇もなく、待ち構えた余裕チームにおでこをぺちっと叩かれて、手も足も出ず、あっという間に連敗で敗退するのが常だった。ポストシーズンは、やはり余力がないと、どうしようもないのだ。
ただ、プレイオフになって連戦、短期決戦の中で、ぐんぐん成長する、勢いが出る、調子に乗ってくるチームがある。97、03年のフロリダ・マーリンズとか、05年のシカゴ・ホワイトソックスとか、見かけは田舎もんなのだが、じつは教養があって裕福な家庭のおぼっちゃんだったので、テーブルマナーはバッチリ、気のきいた会話もほどよくこなし、どんどん洗練された男性になるようなもんであろうか(まさか〜)。
 
 正直言って、カーディナルス、A’s、ラルーサ監督はいつも、エリートの香り漂うメンバーがずらりと揃った、優勝候補がユニフォームを着て歩いているような堂々たる素敵なチームを率いておられた。ひいき目に見て嫌味はなかったが・・・。しかしながら、膝を痛めた(当時の)シーズン最多ホームラン記録保持者、誕生日プレゼントで指を切断しかけた超美形チームリーダー正捕手、DSで代走選手に激突され、肩を脱臼したナ・リーグ一の3塁手、プレイオフでケガした、オールスター・ショート・ストップ、シーズン優勝かDS勝利のシャンペンファイトで、シャンペンを開けるときに指を切った投手もいたっけ、など、いつも主力にケガ人が出ていた。そしてああ、彼さえいればと、常に歯車がかみあわず、ちょっとしたことで動揺したところを、ガッツ溢れるやつらにかみつかれて、どーしたんだろー?ボクちゃん達?と、調子が出ないまま、気が付いたら連敗して後がない、終わっちゃった、というパターンであった(96年のNLCSは、3勝1敗でブッシュスタジアムに帰って来たとき、まっかっかな満員の観客の大声援に、固まっていたような、気が、いたしますが・・・)。今年も、ご丁寧に抑えと左のエース抜き。が、しかし、いつのまにかCSでの連戦でもまれているうちに、脇役たちがしっかりした、
がつがつしたクリンゴン戦士チームに変身していたのであった・・・。
 
 それで、ワールドシリーズの相手は、デトロイト・タイガースであった。84年のあと、ワールドシリーズ優勝から遠ざかっている。「私立探偵マグナム」全盛期以来である(トム・セレックがデトロイト・タイガースファンなの)。低迷が長く続いていたが、新球場も出来、イヴァン・ロドリゲスがなんであんなとこに?と思っていたら、昨年オフには、ジム・リーランドが監督に就任し、いよいよチーム再建が整ったところであった。
つまり、低迷が長く続くと、ドラフトで将来大スターになるような若い子がたくさん獲得できるのが、本場の良いところ→彼らが成長してメジャーリーグに上がってくる→ベテランFAを補強→名監督を招聘して指揮を任せる=うまくいけば、その後、若い子がFAでチームを去って行くまで、優勝争い出来るようなチームになる、というのが、ミネソタ・ツインズ、オークランドA'sもそうだったように、ローカルチームが低迷から抜け出す、いわゆるひとつのパターンである。
 そんなわけでタイガースには、ぴちぴちした若い先発投手が雨後のたけのこのようにぞろぞろと芽を出し、びゅんびゅん走る外野手までいるのだった。たしか4月半ば、無様なゲームにぶ然として、記者会見でぶち切れて、チームに喝を入れたリーランド監督だったが、そのかいあってかすごい勢いで連勝、4月末、ESPNのニュースで、「
おおっ、レディース&ジェントルメン、デトロイト・タイガースがトップです!!」と言ったっけ。タイガースが首位なんて、ものすごい珍事なんだろうなと思ったが、ピッツバーグ、フロリダでならした名監督である、その後は、首位を独走し、ぶっちぎりで優勝かと思いきや、なんとツインズがぐいぐい追いついてきて、結果的に2位となり、ワイルドカードでのプレイオフ進出になった(ナショナルリーグセントラルよりも、レベルの高い競争だったのは言うまでもない)。
 アメリカンリーグDSでは、初戦をヤンキ―スにとられたが、2戦目を勝ち、1勝1敗でデトロイトに帰ったとたん、あっさりと連勝、ヤンキ―スは、どうしたんだろ〜?ぼくちゃんたち〜?状態であったはず、ニューヨークでは、ジョー・トーレ監督のクビも取り沙汰されたほどのショックだった。
 
だって、デトロイト・タイガースに負けたんだもん。
DS勝利を決めたとき、就任1年目のリーランド監督は、グラウンドでのダンゴ状態の次に、選手達の肩車に乗せられていた。日本の胴上げにあたる、ヴィクトリーライディング、それも監督を!これは滅多にないことだった。ESPNのニュースなどで選手達は、口々にリーランド監督のリーダーシップを褒め称えていた。
 ALCSは、意外にも(失礼)勢いのあったミネソタ・ツインズを降したオークランド・A’sが相手だったが、タイガースはあろうことか、A'sに4連勝した。最後は、女の子みたいなかわいい顔をした、マグリオ・オードニェスのさよならホームランで決めた。スウィ―プで、はやばやとワールドシリーズ進出を決め、カーディナルスの7戦が終わるのを、1週間ほどじーっと待っていたのであった。
 05年のホワイトソックスのように、連勝している勢いがある、こわいものなしの若い選手たちを、ケニ―・ロジャース投手やイヴァン・ロドリゲス、ショーン・ケイシ―のようなベテランがしめ、リーランド監督がまとめる、数年前までカーディナルスにいた、ぷー君の親友のプラシド・ポランコちゃんも、CSで大活躍、MVPをとって健在である、なんだかすごい相手であった。
おまけに、リーランド監督は、言うまでもなく、ラルーサ監督の長年の親友、昨年まではカーディナルスのスカウトでもあった。ちなみに、どちらが優勝しても、スパーキー・アンダーソンの持つ、監督として両リーグ制覇の2人目の記録になる、ラルーサファンの私にとっても、夢のような対戦なのであった。
そうそう、ラルーサとリーランドは、シーズン中でも毎日数回、電話で話す間柄なのだが、ワールドシリーズ期間中は電話はやめるという記事が載っていた(あたりまえではないだろーか)。
尚、カーディナルスは、インターリーグでコメリコ・パークでタイガースとの対戦があったが、あっさりと3連敗したのは、私だって知っている。
 さあ、死力を尽くしたメッツとの7戦で、カーディナルスは、疲れ切っているか、はたまた、ここまでやれるなんてと、無欲の勝ちあがりに自信と勢いがついてきたか。デトロイト・タイガースは、ゆっくり休んでローテーションきっちりで、カーディナルスの研究もして余裕を持ってくるか、それとも、間が開きすぎて、短期決戦のコツを忘れてしまっているか。もちろん下馬評は、タイガース有利に決まっていたが・・・。ファンの私にも、さっぱり先が読めなかったのであった。
 
 第1戦は、コメリコ・パークで行なわれた。BSでは、いつものようにMLBの国際映像で、主に外国に駐留するアメリカ軍基地向けの放送だった。実況のリック・サトクリフと、メッツのアナウンサー(名前が出て来ないが・・)の話はいいのだが、FOXSPORTSのアメリカ全国ネットと較べると工夫がないことおびただしい。ああ、ジョー&ティムのコンビで見たかったよう!
で、前述のとおり、カーディナルスは、先手必勝である。メッツ戦では初戦をおとして1勝1敗にもちこんだが、あのときのようにうまくいくかどうかわからないじゃんか。ここまで来たんだ、ぜひ、チャンピオンになってほしい、それにはやはり敵地で先勝である。
タイガースの先発は、満を辞してのジャスティン・ヴァ―ランダー。が、ここでも、カーディナルスは、メッツ戦で力を出し切ったため、エースのカーペンター君が第1戦に先発出来ない。そこでラルーサ監督は、若いアントニー・レイヤス投手を先発させるという、賭けに出た。レイヤス、大柄で伊良部にそっくりな顔で、若いと言われなければオッサンにしかみえなかったが、これがなんとなかなかしっかりしたピッチングをしたのであった。 
このゲームの前だったと思うが、田口日記によると、練習中、ラルーサ監督は、わざわざ田口の側に来て、「
キミを先発させなければカミカゼ攻撃をすると、日本の首相から電話があったんだ」と、それだけおっしゃって、首を振りながら行ってしまわれたという。う〜ん、私の知っているかぎりでは、90年のALCSで、マイク・ガイエゴちゃんに使った同じ手口、おお、お気に入り選手の証ではないか!!もちろん、先発ラインアップだよ〜んという意味である。
田口選手は、1対1の同点で迎えた3回表、ランナーのヤディ―ルをすすめるため、ヒットエンドランを敢行したラルーサ監督の作戦どおり、地味だが、ものすごい技術で、バットを放り投げるようにしてボールを当て、ランナーを進めた。アメリカのメディアは、このプレイを絶賛した。その後、きっちりと、フランケンシュタインことダンカン息子のタイムリーヒットが出て逆転、その後もぷー君のホームランなどの追加点を加えて先勝した。またもや、田口がゲームの流れを左右するプレイをきっちり決めたのだ。
BSの田口特集でも、わざわざインタビューに登場したラルーサ監督が、これがワールドシリーズの行方を左右したバントだと、はっきりとおっしゃっていた。田口も、これがシリーズ最初のサインプレイだったので、このバントが成功したことで気持ちが楽になったはずと、自負していた。
部下の仕事を評価しない上司、上司の意図を汲んで仕事が出来ない部下にぜひ見せたいものだ。
人種も国境も言葉の壁も関係ない、お手本のような完璧な信頼関係ではないか・・・。
 第2戦の勝利投手は、松やに君、いや、ケニ―・ロジャースに抑えられた。松やにつけてもどうってことない、というが、BSフジの番組に出演した、斎藤隆投手が、アメリカのボールは滑りやすいので、みんなやたらと手をなめている(注 マウンドの周囲2mだったかでは唾をつけてはいけないのよ)と言っていた。とすれば、松やに君の役目は一目瞭然である。ESPNのニュースでも、ジョン・クラックが、はっきりとしたことを言っていた。ラルーサ監督も、やっぱりリーランド監督に遠慮したかなあと思う・・・(ということは、余裕があったんだ)。
とにかく、以前ならば、1敗すると、ああ、もうだめかも?とどきどきしたもんだが、不思議なほどに不安がなかった。
だって、ブッシュスタジアムでファンが待ってるんだもん(こればっかり・・・)。
 第3戦は、ブッシュスタジアムで行なわれた。CS優勝以来、初のお国入りいや、ホームでのお目見えである。選手紹介で田口には特に大きな声援、拍手が起こっていた。ファンはみんなキープレイヤーを知っているのだ。尚、殿堂入り選手であるオジ―・スミス先輩が始球式をされた(ファンなのだ)。
そういえば、CSの最初のゲームの先発をラルーサ監督にはずされた、スコット・ローレン君も、CSの後半から、超ファインプレイをこなし、ヒットが出始めた。確執がどうなったかという続報はなかったが、この人、くさってると活躍しないもん、はずされたショックがよい起爆剤になったとすると、ここでもラルーサ監督采配のマジックだが、ふたりの仲もまあ、大丈夫なんだろうなと思った・・・。シリーズがもうちょっともつれて長く続いていれば、ローレン君がMVPだったと思う。
 しかしタイガースは、何度もエラーをした。田口日記によると、誰が見てもバントの場面で代打に出て、バントを決めるのはものすごいプレッシャーだというが、ぷー君なんて、ランナーがいてもいなくても、長打、ホームラン、打点を期待されるのよ。なにいってんのよっ、と言いたいところだけど、第4戦、3対3の同点での7回、エクスタインのあと、ものすごい声援で登場した、代打田口の1球目の絶妙なバントが、見事に決まり、タイガース投手のエラーまで誘ったのであった。5戦目のバントでも・・・。
 代打田口の前に、マウンドで協議するタイガース陣営、とうとうそういう存在になったのである。これはもう田口が、マーク・レムキジム・レイリッツものの選手であると認識されていたといって間違いないと思う。
 
 シーズン中に打点王やホームラン王を獲得して、プレイオフはまあまあでも、ワールドシリーズになると、ひどい便秘になったように(あっ、失礼)、脂汗を流し苦悩の表情で三振凡打の山を築く主砲は珍しくない。くま先輩カンセコ、パイレーツ時代の91年のNLCSでのボンズ、ボニーヤはひどいものだった・・・。まさに、チームの勝敗に直結する便秘であった(ほんとに申し訳ない)。
しかし、シーズン中は目立たないが、突如としてここというときに、長打をかっとばしたり、超美技を披露し、圧倒的な存在感で勝利を呼び込む選手がいる。
私は縁起もの選手と呼んでいる。今までカーディナルスにも、よそで縁起ものだった選手は何人もいた。意図的に集めたのではないかと思ったくらいである。97年のワールドシリーズ第7戦で、フロリダ・マーリンズ優勝を決める、さよならヒットを打ったエドガ―・レンテリア君、NY・ヤンキ―スのワールドシリーズで大活躍した、ティノ・マルティネス君、アリゾナ・ダイヤモンドバックスのプレイオフ、ワールドシリーズでショートの上を越えるさよならヒットを打った、トニー・ウォマックとファインプレイをしたレジ―・サンダース(ん〜、記憶だけで申し訳ないが)、エンジェルスで活躍した、スコット・スピージオ、エクスタイン君も入れてあげよーか、それにプレストン・ウィルソンは、継父のムーキーが、これ以上ない、歴史に残る縁起もの選手であると思う。
だが、今年のカーディナルスの縁起ものは、やはり田口選手であろう
。色々と縁起もの選手を入れたが、とうとう本物の縁起もの選手が出現したのだ。それにいつもは、縁起もの的活躍をしてはじめて、その選手の存在を知るのだが、私たち日本のファンは特に、田口選手が、スポットライトを浴びる、絶賛される活躍をする前の苦労を知っているのである。これは縁起もの選手研究にとってこのうえない機会だし、縁起ものの活躍だけではわからないことを知っているなんて、ほんとうにすごいことだと思う。まったく、縁起もの研究家冥利に尽きるというもんである(しつこいけど、がまんしてね)。
 ちなみに、田口インタビューによると、ラルーサ監督は、9月になってから、田口にバントの練習を命じたという。シーズン優勝が危ないかもしれないというスランプの中でも、名将は、ちゃんとポストシーズンを踏まえての準備は怠らず、先を見通しておられたことがわかるではないか。
 
 タイガースでは、ロドリゲス、ポランコちゃんが便秘、いや不発だった。ロドリゲスは最終戦でヒットが出たが、すでに遅し。ポランコちゃんときたら、忍者みたいな黒いニット帽子が印象に残っただけ、あれほどALCSで活躍し、MVPになったというのに、もとのチーム、ファンに良い顔ができず、最後までノーヒットに終わった・・・(優勝の瞬間、塁上にいて、ぷー君に声をかけていたようだった)。自慢の若いぴちぴちした投手陣も、ミスが目立ってしまった。名将リーランドも、意気消沈したようにみえた・・・(タバコの量が増えないか、心配だ)。しかし、短期決戦はどうころぶか最後までわからない、ブッシュスタジアムの観客が画面に映るたび、私は鏡を見ているのかと思うほど、カーディナルスファンはみんな同じような心配そうな顔をしてゲームを見つめていたのだった。
 結局シリーズは、4勝1敗でカーディナルスが勝った。
 
 
地元でのワールドシリーズ優勝は格別であった。田口選手がオフのどの番組でも言っていたが、ほんとうに「まるで映画の一シーンのよう〜」だった。すっきり澄み切った夜空に、色とりどりの紙吹雪が舞いまいこし、まっかっかな観客は絶叫し狂喜乱舞、盛大に花火が打ち上がった、すべて愛するカーディナルスの優勝をお祝いするためにである。選手たちはあちこちで抱き合い、あっという間にひとつの巨大ダンゴ状態になっていた。ゲーム終了後も、グラウンドでの交歓が長いこと映っていた。選手の家族も中へ入り、ワールドチャンピオントロフィーの贈呈式では、ラルーサ監督、ジョケッティ―GM、デウィットオーナー、ぷー君のインタビューもあった。エクスタイン君へのMVPの贈呈式も、今年4度目のシャンペンファイトも少しだけ流れた(写真を見ると、あとで客席にシャンペンをかけに行ったようだが、そこまではしなかった・・・)。
そのなかで、大柄ないいおとこ、もと西武ライオンズ、フロリダ・マーリンズ選手、現ESPNの解説者オレステス・デストラーデが田口を祝福して、ハグしているのが映った。MLB国際映像の解説、リック・サトクリフ元投手(たぶん)が、「おお、デストラ―デは日本ではビッグスターだからね、田口とハグしてるよ」と解説、田口の活躍を褒め称えていたのであった。また、田口はワールドシリーズ優勝した、日本生まれで4人目の選手と言っていた。伊良部、井口、デイブ・ロバーツ、そして田口なんだそうだ(なるほど〜)。
 ESPNのニュースでは、ほんものの優勝の瞬間がみられた。国際映像+NHK−BSでは、ほとんど田口だけだったもん。ラルーサ監督は優勝の瞬間飛びあがり、ベンチで(彼の数少ない欠点である)O脚を開脚されて、側にいたクリス・カーペンターに飛びついておられた(一瞬抱き合ったが、すぐに我にかえったカーペンターが彼を振り払ったのがおかしかった)。振り払われた彼は、コーチ陣とダンゴになっておられた。その後、ベンチを出て選手達の巨大ダンゴ化を見守り、タイガースベンチをじっと見つめて、おそらく、リーランド監督と目が合った後、帽子をとって会釈しつつ、グラウンドへ進まれる様子が映っていた。ラルーサ夫人、お嬢さんたちもいらしていた。ラルーサ監督の、あんなに嬉しそうな顔は見たことがない。
 ラルーサ監督には、現役最多勝のほかに、2人目の両リーグ制覇監督という勲章が加わった。彼以外に誰がなるといわれてだいぶ経つがやっとである・・・。その他、田口選手は、日本一と世界一両方になった6人目の選手で、日本人としては2人目になった。ヤディ―ル・モリーナは兄ちゃんたちと並び、ワールドチャンピオン兄弟だし、スコット・スピージオは、カーディナルスでワールドチャンピオンに輝いた初の親子になるはず、ダンカン親子は、同じチームでワールドチャンピオンなど、色々な記録も樹立されたと思う。

 メッツ戦も、タイガース戦も、ものすごいゲームだった。ラルーサ監督の作戦は、ことごとく当たったが、それを実行したキーマンは、誰も予想しなかった田口選手だった。ほんとに今までポストシーズンで、最後までこんなにうまく行ったのを見たことないんだもん。しかしうまくいけばいくほど、心の底では、素直に喜べない申し訳ない気持ちが消えなかった。なぜなら、7戦までいったのに、高額年俸の中心選手がここというところで打てなかった(それも、若手投手に抑えられた)メッツ、実力が出し切れず、焦ってエラーを連発し、名監督でさえどうしようもなかったタイガース、共にカーディナルス、A’sで何度も見たシーンであった、いや、とても他人とは思えないほど、すごくお馴染みの光景だったのよね。結局、シーズン162ゲームで優勝するには、故障なしの丈夫な体のほかに、大型トラックなみの馬力の選手も大事だが、彼らがうまく機能するために、持久力と小回りが求められるのではないかと思う。短期決戦は、アジリティーのようなものではないだろーか・・・。
 
 

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