調査シリーズ第1回

西播磨で唄い継がれる音頭について
 

 社会の変化の中で、文化もその姿を変えていきます。老人は昔を懐かしみ、若者は流りものに心を奪われている状況の中で、現状を正しく認識し、あるべき姿を求めていく行動が必要となります。

 まず、その第一弾として、各市町文化協会に合同調査をお願いし、西播磨の音頭の状況が判明しました。



? 西播磨の音頭の種類

 播州音頭/播州段文音頭/伊
勢音頭/まんき踊り/盆踊りくどき/ちょこちょい音頭/江州音頭/吉川音頭/てんとら音頭/シャントコ/扇踊り/手おどり/左ヱ門/夜川/手ぬぐいおどり/国定忠治くどき/石童丸くどき/安珍清姫/サノサ/サエモン

 これらの、遠い昔から唄い継がれてきた音頭と合わせて、赤穂音頭、赤穂御崎音頭、鍜通織うた、浜鋤うた、福崎音頭、神崎小唄、福崎かたり節、佐用音頭、いちょう囃子、三日月音頭といった比較的新しいのではないかと考えられるものも分かりました。しかし、唄い始められた時期が明確でないという報告もありました。

 この様に数多い種類の音頭が
伝わっていることが分かりまし
た。
 

? 音頭の地域分布の傾向

 東播磨の東部から北神戸を中心に唄われている「播州音頭」が西播磨でも広く唄われていま
す。
 姫路市東部、香寺町、夢前町龍野市、太子町、御津町、上郡町から報告がありましたが、福崎町、安富町、山崎町、波賀町から報告のあった「よかわ」も播州音頭であるので、広い範囲で播州音頭が唄い継がれていることが分かります。

 播州段文音頭と回答があったのは、姫路市西部、龍野市、相生市、揖保川町、新宮町、安富町でした。

 その他のいろいろな音頭は神崎郡や宍粟郡、佐用郡といった北部に多く、家島のくどきもそれに含まれるといえます。これらの中には播州音頭の一部と区分できるものも含まれますが、宍粟郡のシャントコやサノサ、南光町の扇おどりや手おどり等はまた別の歴史をたどったものでしょう。美作や因幡から伝わったものであるかも知れませんが、調べが必要なところです。











 

? 播州音頭と播州段文音頭の違い

 この違いについては、皆さん興味が引かれるところですので継承や新物の作詞に熱心であった、作詞家の後藤利信さん(故人)の由来文をもとに簡略にご紹介します。

 播州段文音頭由来
 今から七百年も前のこと、一遍上人という偉いお坊さんが全国遊行しながら(播磨のあちらこちらにも立ち寄られ)先祖供養の念仏踊りを広められました。(これが、盆踊りの始まりといわれています。)
 後になって歌舞伎や浄瑠璃が随分と流行して、続々と新しい脚本がだされましたが、この浄瑠璃の物語を念仏おどりに取り入れたのが「播州音頭」です。その中の吉川音頭系では声自慢が浄瑠璃もどきの唄い節の流派を生み出し、その番付表には芸名が連なっていました。踊りは歌舞伎踊りを想像させて見る目
を楽しませてくれます。
 一方、播州段文音頭は段文と云うように、浄瑠璃や歌舞伎の台本の中から「段物」の部分(さわりの部分)や「口説き」に節回しを付けて唄うことにより段文音頭と名付けられました。
 主として姫路市の南西部、龍野市、揖保郡を中心として盛んになり唄は民謡調で軽く、田植えの終わった頃は太鼓の響かぬ村はなく、浴衣がけで寄り集まり踊り明かしたものです。
 吉川系は見せる芸能であり、段文系はともにやって楽しめるものです。

この後藤さんの解説からも想像されますように、当時は庶民の最大の楽しみで大変なにぎわいであったようです。









 

? いつ頃から変化が起きたのか。

 段文音頭には歌詞や譜面というものがなく、まったくの口伝であり、唄う文句も様々で、踊りに合うものもあれば合わないものもあり、また、即興で唄う事もあり、播州の土の匂いのする素朴なものでありました。
 庶民の心をつかみ大変な人気であった播州段文音頭が一番盛り上がったのは、明治の末期でした。その頃、網干と新宮をつなぐ、龍野電気鉄道(後の播州電気鉄道)が通っていましたがその増収策もあって、太子山納涼大会が盛大に開かれていたのでした。

 揖保川筋を縦につなぐ鉄道が昭和9年に廃止となり、太平洋戦争の悲惨な時をすぎて、アメリカ文化がなだれ込み、ダンスミューシックが大流行となって日本の伝統的な民俗芸能が忘れられる風潮となっていくのです。(網干段文音頭保存会増田喜義氏のことば)


 継承者が高齢化しつつある現在、音頭や踊りの記録や映像化とともに後継者の育成が望まれているところです。










 

? では、どうすれば良いのか。

・各市町ごとに伝えられている音頭や踊りなどを継承する保存会をつくる。
・市町や県の無形文化財として指定を受けるよう手続きをする
・昔からの音頭や踊りが伝えられていることやその内容を新聞やテレビで知らせ、保存会の支えとする。
・録音テープや映像で保存するとともに若い世代に伝える講習会を開催する。



文責 西播磨文化協会連絡協議会         事務局 藤原 誠