光合成、それは私たちの地球システムを発展させてきたユニークな反応系です。
現世のほとんどの生命の拠り所である分子状酸素、私たちが呼吸している酸素を作り出してきた、そして作り続けている唯一の反応系が光合成です。
光合成の研究はいまでもフロンティアのひとつです。
私たちは、この魅惑的な反応系を原子のレベルから個体レベルまで、詳細に解明することを目的にしています。
光合成は理学的にも興味深い研究ですが、いまの社会に必要とされる、非常に広がりのある研究でもあります。
人間の活動により、大気中の二酸化炭素が徐々に上昇してきています。
太古の光合成による化石燃料(原油・石炭など)は、早晩、底をつきます。
そこで求められているものの一つが太陽エネルギーの有効利用です。
植物による光合成を有効に利用することが鍵であることは、地球の歴史が示すところです。
私たちは、光合成の研究を通してこのような地球環境の問題の解決に貢献します。




光合成電子伝達反応の原子レベルでの解明

1. 光化学系II・光化学系I・シトクロムb6/f複合体の結晶化および構造解析による反応系の解明

これらの膜タンパク質複合体の良質な結晶を作製してより高レベルの結晶構造モデルを構築し、光合成の各素反応を原子レベルで理解・記述することを目指しています。
各種シアノバクテリア、原始紅藻、珪藻など、光捕集システムが異なる生物種を材料にして、光エネルギーの伝達システムも含めての解明を進めます。

2. 構成サブユニットの機能解析

光化学系II複合体は、20種類ものサブユニットタンパク質から構成されています。
しかし、そのサブユニットタンパク質の多くは、機能が不明です。
反応中心タンパク質を囲むように存在するそれらサブユニットタンパク質のほとんどは、ラン藻から高等植物まで保存されています。つまり、25億年にも亘る酸素発生型光合成生物の進化の過程でしっかりと保持されてきたということです。それは、いま現在までの私たちの知識では掴むことのできない何らかの大事な機能を果たしているということを示唆します。
これらのサブユニットタンパク質の機能の解明を目指します。
主たる研究材料は、常温性のラン藻で、形質転換系も有効に利用して研究を進めています。

光合成生物の環境応答

生命現象は、環境との関わりを抜きに理解することはできません。光合成生物も、環境の中に生き、環境と対話しながらその生命活動を維持しています。
環境因子の多くは、日周的、年周的に、あるいは急激な変化を見せます。
そのような環境の変化に対して、光合成生物は光合成系をどのように調節して効率的な光合成を行っているのか、そして生き延びているのか、その仕組みを生化学的にかつ生理学的に解明します。

1.アイスアルジー、好冷性微細藻類、珪藻の光合成機構

 海洋での光合成生産は、温暖域では低く、極域を含む高緯度海域で高くなります。
(遠洋は、温暖であっても溶存鉄が不足しているため、藻類の活動が非常に低い。)
 その高緯度域での光合成を担っている主要な光合成生物が、珪藻です。
 珪藻類は、「地球上」の光合成生産の20%程度を担っています。
 またアイスアルジーを含む好冷性の植物プランクトンは、寒冷海域の生態系を担う一次生産者です。そしてアイスアルジーは、多くが珪藻類です。
このように地球生態系に重要な珪藻およびアイスアルジーの光合成機構を、生理・生化学的に解明します。
珪藻は、硬いシリカの殻に包まれているため、生化学的な研究は困難でした。
当講座は、世界に先駆けて珪藻の光化学系についての詳細な生化学的研究を可能にし、具体的な解析を遂行しています。
国立極地研究所との共同研究も行っています。

2. 膜タンパク質複合体の離合集散

たとえば光化学系II複合体は20種類ものサブユニットタンパク質で構成されている複雑な複合体です。光化学系II複合体はチラコイド膜を住居にしています。しかし、チラコイド膜上には光化学系I複合体やその他の膜タンパク質も多数、割拠しています。そのような膜タンパク質複合体は常に新陳代謝を行っているダイナミックな存在です。その複雑な新陳代謝の過程においても、光化学系IIのサブユニットはかならず光化学系II複合体を構築し、そのためだけに存在します。
ところが、その仕組みは不明です。
そして、その構築過程は環境の変動とも深い関わりを持っています。
この未知の過程を解明することを目的にしています。
主たる研究材料は、常温性のラン色細菌(ラン藻)で、形質転換系も使います。